2009年8月号(第55巻8号)

伝える難しさ

福島県立医科大学感染制御・臨床検査医学 金光 敬二

熱中症、メタボリック症候群、大腸癌など、時代や季節によって疾患やその予防法がメディアで紹介されている。2009年は、新型インフルエンザが流行し、その対策について何度もメディアに取り上げられてきた。犠牲をより少なくするためには、一般市民に正しい情報を提供するメディアの役割は大きい。そんな中、“マスクは役にたたない”という記事が新聞に載ったという話を聞いた。しかし、私はバカげた話だと思い取り合わなかった。しばらくたって、ある講演会に呼ばれ、そこでも「マスクは役にたたないと新聞に載っている、どうなのか?」と質問されてしまった。その記事を読んでいない私は、その記事がどのような意図で書かれたものか知りたかったが、率直に自分の考えを述べるにとどめた。後日、新聞記事を探してみると、読売新聞の医療ルネッサンスに「マスクの予防効果は限定的」という記事を見つけた。しかし、マスクは役にたたないとは書いていなかった。マスクを正しくつけるというのがこの記事の意図するところだったのだろうが、限定的という表現や一部に否定的ともとれるコメントがあり読者に間違った情報を与えたのだろう。メディアが情報を正しく伝えることの難しさを感じた。
しばらく前の話だが外勤先の病院で、看護師にインフルエンザの講義をする機会があった。「インフルエンザウイルスはRNAウイルスで、A 型、B 型、C型の3つの型があります。」という話に始まって検査、診断までの概要を話した。その後、その病院に行くと「インフルエンザC型が陽性です」という光景に出くわした。声の主は、私の講義を受けた若い看護師だった。C型を診断するなんて珍しいな?と思った。もしやと思い覗いてみると下のようなキットを持っていた。正しく伝えることが難しいのは教育の現場も同じだった。