2009年5月号(第55巻5号)

〇今月号に掲載の「新版全国衛生研究所見聞記」では、高知県衛生研究所に訪問取材させていただきました。研究所の皆様には大変お世話になり、誠に有り難うございました。

〇これまでの見聞記の取材では一度も欠くことなく探訪子の先生にお供させていただいたが、今回は心ならずも会社の昇格試験と重なり留守番をすることになった。たびたびご連絡をとらせていただいた間﨑先生をはじめ衛生研究所の皆様にお会いしてお話しをうかがえないことが残念だったのは言うまでもなく、高知県という感興をそそられる地に足を踏み入れる機会を逃してしまったこともとても残念であった。

〇高知県には数多の酒蔵があり、左党を唸らせる数々の銘酒が造られている。たとえば「酔鯨」。土佐藩15代藩主で無類の酒好きであった山内容堂の雅号「鯨海酔候(げいかいすいこう)」から名前をとったという。社会人になって間もなくの頃、宴席で、「酔鯨」という猛々しい名前からどんなに強い日本酒かとたじろぎを感じながら、それを口にすることでいっぱしの酒豪にでもなった気がして得意だったことを記憶している。他に高知には宇宙遊泳をした酵母を使った「土佐宇宙酒」なる日本酒があるという話しで、新旧とりどりあって興味深い。

〇高知県では酒宴のことを「おきゃく」と呼んでいる。お客をあたたかく迎え入れ、楽しくもてなすお国柄のようで、お座敷遊びにも独特な文化がある。お酒の強い人向けには“べろべろの神様”(可杯(べくはい)の歌「べろべろの神様は正直な神様よ、男前のほうへおもむきゃれ、おもむきゃれ」を歌いながら駒を回し、駒が向いた先に座す人が酒を飲み干す遊び。おかめ、ひょっとこ、天狗、と容量の異なる3種の杯を使う。それぞれに穴が開いており、酒を飲み終えるまで置くことが出来ない)や“菊の花”(人数分の杯を裏返し、そのうちの一つに菊の花を忍ばせる。「菊の花、菊の花、あけて嬉しい菊の花」と歌いながら杯を裏返し、菊の花の杯を開けた人が、それまでに開いた杯全てに酒を注ぎ飲み干さなくてはならない)、そしてお酒に弱い人にも安心できそうな“箸拳”(向かい合わせで箸を隠し持ち、隠した箸の合計を当てる)などの遊びがある。一方、酒を盛りたてる料理のほうも、大皿に生物、揚げ物、煮物などのご馳走を盛った皿鉢料理、県の魚である鰹を使ったたたきや鯨料理など豪快で種類も豊富である。
土佐藩初代藩主・山内一豊の妻・千代を主人公とした歴史小説「功名が辻」、BC級戦犯の無念の死を描いた「私は貝になりたい」の舞台となったあのあたたかい漁港の町はどのようなところか、坂本龍馬の記念館にも行ってみたかった、と思いは尽きない。いつかまた機会を得て旅をしてみたいと思っている。

(大森圭子)