2009年3月号(第55巻3号)

〇まるで沸かす途中の湯を混ぜたように、予測不可に寒暖入り乱れる季節となった。逸る気持ちに薄着をして失敗をし、朝夕寒い思いをすることもあるが、それにしても日差しはすっかり春。厳しい冬を越え、行ったり来たりしながらも日に日に暖かくなるのが嬉しく、胸躍る気分である。

〇この季節、植物の精力には目を見張るものがあり、気がつけば明るい日差しにすくすくと新芽は広がり、色とりどりの花が咲き始めている。わが家の狭い庭にも忘れずに春は訪れてくれたようで、昨年秋に紅葉の美しさに惹かれて衝動買いをし、庭に置き去りにしていたブルーベリーの鉢植えにも小さな蕾が寄り添うように付いている。
ブルーベリーは元来、北米に自生する植物で、原住民は古くからスープやシチューなど食生活に取り入れていたそうだ。わが国には1951年に導入され、東京農工大学・果樹学教授の岩垣駿夫先生が生産に関する研究を行い、多くの研究者や栽培家を育て発展させた。この業績を称え、岩垣先生は「ブルーベリーの父」と呼ばれているそうである。一方、こうした経済栽培とは別に、他の果樹よりも害虫がつきづらく、挿し木で簡単に増やすことが出来、気候にあわせて品種も選べ、秋には紅葉も……と良い事尽くめであることから、家庭栽培でも人気がある。私もぜひお試しを、とお薦めしたい。

〇わが国の伝統的な色の名には、桃色、紅梅色、桜色、菜の花色、菫(すみれ)色など様々な春の花色が取り入れられている。花を愛でる心とともに、花色を思い浮かべることで繊細な色の違いを感じとれるように、とこれも先達が与えてくれた知恵であろうか。
ブルーベリーの果実に含まれる“アントシアニン”は、抗酸化作用や視力改善効果があるといわれる。深い青紫を呈する菫の花色も実はアントシアニンだそうである。
「菫程な 小さき人に生まれたし」(夏目漱石)
可憐に咲く菫の姿、花色は清らかで、心の錆をも落としてしまうに違いない。

(大森圭子)