2008年11月号(第54巻11号)

〇すっきりと晴れわたり、澄んだ空気に晩秋の冷たさを感じるある休日、JR駒込駅に臨在する二つの庭園、「旧古河庭園」と「六義園」をはしごで散策するという恵まれた機会を得た。
「旧古河庭園」は滋賀県出身の実業家である古河虎之助男爵の元邸宅で、国指定の文化財の一つである。虎之助はこの邸宅で大正6年(1917年)から大正15年(1926年)のおよそ10年間を過ごした。虎之助が移り住む迄は外交官陸奥宗光の邸宅であり、日本庭園が設けられていたが、これに加え虎之助が洋館とバラ園を増設した。現在の洋館は修復されたもので、残念ながら歴史的重みはさほどないが、ダークトーンの煉瓦の洋館は落ち着きがあり、様々な形に整えられた植え込みとよく似合っていた。また、心字池を中心とした日本庭園の木々のとりどりの紅葉はのびのびとして、自然体であることがかえって懐かしく美しく感じられた。
この日は運良く「紅葉の宴」と称して二胡の演奏があった。入り口で配付された大判のビニール袋を芝生に広げ腰を下ろして、秋風に乗り、どこまでも運ばれていきそうな伸びやかな二胡の音色を楽しんだ。
一方、「六義園」は徳川5代将軍・徳川綱吉の御側御用人柳澤吉保の元下屋敷で、吉保が和歌の世界を表現せんと平地に丘、池などの起伏を造り、小さいながらも滝までをも実現させた庭園である。現在も入り口に長蛇の列ができるほどの人気ぶり。この時期の呼び物はライトアップされた紅葉である。日没とともに漆黒に沈み込む漆のような池に、木々の葉の色がくっきりと浮かび上がり、しばし寒さを忘れるほどの美しさであった。

     名月や池をめぐりて夜もすがら   芭蕉

日を追う毎に冷え込みが増し散策もままならぬ季節を前に、季節の恵みに包まれ、この季節の幕を閉じられたことは大変幸せであった。

(大森圭子)