2008年11月号(第54巻11号)

色紙に描く季節の草花

まつたけ

毎年秋も終わりかける頃、郷里の丹波からまつたけが贈られて来る。妻の親戚がまつたけ山を持っているのである。最近はまつたけの出来が以前ほどではないと言うし、また仕事が忙しくてまつたけ採りに出かけにくいと言う。それでも一度は行かないと、秋が来た事にならないのだろう。

僕らが子供の頃は、秋の味覚というと、まつたけ、しめじと栗、柿などだった。今はまつたけが馬鹿げたほど貴重品扱いをされるようになった。確かにいい香りがする。歯ごたえもよい。ところが、娘や孫は、こんなものどこがいいんだとそっけない。嗜好が変わったのだろう。

私が中学生だった時、一度まつたけ山に案内してもらったことがある。まわり5メートル範囲内に、そこにもここにも、開きかけたまつたけが出ており、また松の木の根本で松の落ち葉が少し盛り上がっているのをそっと押しのけると、その下に頭のずんぐりしたのが出始めている。ほんの20~30分くらいで相当採れた。早速少し開けたところに出て、松葉や木の枝を集めて火をおこし、そこでまつたけを焼き、持って来た醤油を付けて食べた。中国の古人が「林間に酒を温めて紅葉を焼く」といった詩の風情に近い感じだったが、こちらは当然酒は出なかった。

15年ほど前、8月下旬に欧州で学会があって出かけた。飛行機でまずストックホルム空港に着き、そこの観光をした。バスガイドが、「もうこちらではまつたけが採れて、安い値段で売られているので、お土産に買って日本に送られるといいですよ」と案内していた。バスの窓から見ると、日本で見るのと同じ松の木が生えていた。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。