2008年10月号(第54巻10号)

〇どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみもふきとばせ
すっぱいかりんもふきとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう

と書かれているのは、宮沢賢治の短編小説「風の又三郎」である。
風の音が賢治ならではの絶妙な言い回しで表現されているので、怪しい風の強さを肌で感じられるような気がしたり、頭の中でひとりでに節を付けて読めてしまうのが楽しい。

〇一様に葉と同じ緑色をしていた榠檐(かりん)や林檎などの果実や、胡桃や栗などの木の実も、いつしかとりどりに色づく季節となった。
元来、個体数が多く繁殖能力に優れた植物は、種族を広く繁栄させるため、鳥や動物の目に付きやすいよう赤や橙や黄色など目立つ色に実を色づける。
また逆に、個体数が少なく繁殖能力の低い植物では、葉の色や幹と同じ色の保護色に実を色づけ、また、硬い殻や棘で実を覆う、臭い匂いを出すなどして鳥や動物に食べられないように実を保護している。
おかげで果実や木の実たちは、美しい色彩と様々な形状とで私たちの目を楽しませてくれ、また、美味しさや効能面でも恵みをもたらしてくれる。いつだか秋の公園でこっそりとシイの実を食べ、その滋味深い美味しさに驚いたことがある。シイなどは、縄文時代には重要な食料であったというし、木の実の味は永らく変わっていないというので、縄文人と同じ味わいに興じているのかと思うと、はるかなる文化への思いを同時に味わうことができた。

〇俳句の秋の季語を見ると、柿、林檎、葡萄などの果実や、栗、銀杏、棗(なつめ)、胡桃、山椒の実、団栗(どんぐり)、樫(かし)の実、櫨(はぜ)の実・・・・・・などの数え切れないほどの木の実の名があげられていた。秋が深まるにつれ、数多くのシーンに登場し、心と体に恵みを与えてくれるに違いない。

(大森圭子)