2008年9月号(第54巻9号)

〇誰もがどこか寂しさを感じる秋、空がずい分と遠くなり、広々と透きとおる空間を秋風が足早に吹きぬける。都会では光害で満天の星空を眺めるのは困難でも、いつか見た記憶上の星空を手がかりに瞬く星で一杯の夜空を想像するのも楽しい。

 これはまあ、おにぎはしい、
 みんなてんでなことをいふ
 それでもつれぬみやびさよ
  いづれ揃って夫人たち。
     下界は秋の夜といふに
 上天界のにぎはしさ。
 (中原中也/秋の夜空 の第一節から)

星が瞬いて見えるのは、風による空気の層のむらや温度差によって光の進路に歪みが生じるから。自らの輝きをさらに美しくさせるのは紆余曲折があってこそなのかも知れない。

〇今月号から医療・映画ライターの小守ケイ先生、東京逓信病院内科部長の宮崎滋先生の共著による「シネマをいろどる病と医療」シリーズを開始しました。映画のストーリーと映画の中で重要な鍵となる登場人物の病気をとりあげ、映画と医療、それぞれのご専門のお立場からご解説いただきます。
 1回目は「なつかしい風来坊」。この映画が封切りとなった1966年は、ビートルズが来日し、グループサウンズが大流行していた頃。恐らく私は「バハハーイ」と言いながら、チョコのついたスティック菓子を得意げに頬張っていたことでしょう。
 この頃は映画とは無縁でしたが、原稿を読み、早速この映画を観てみました。決して心に垣根を作ることなく、なりふり構わず人を思いやる心の温かさは容易に真似のできることではありませんが、大切なことを心に刻みました。山田洋次監督ならではの細やかな演出もなかなかの見ものでした。皆様の中には、既にご覧になったことのある方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。

(大森圭子)