2008年9月号(第54巻9号)

色紙に描く季節の草花

おおまつよいぐさ

この草には幼い頃の思い出がある。まだ幼稚園に行く少し前くらいの年頃だった。家が材木屋で、丁稚小僧さんが一人いて、注文の材木を荷車に載せて運搬する時に、私の子守をかねてよく一緒に連れて行ってくれた。夕方だった。郷里の町は大きい水害が起こるので有名な由良川が流れており、その堤防が大きいので子供心にも大変なことだと常々思っていた。市街地に接するあたりは、高さ20メートルにも及ぶコンクリート造りの巨大な堤防であるが、川が市街地を離れると土の堤になり高さもせいぜい5メートルくらいになる。その土の堤の上の道を荷車を引いて通った時、道端になんとも美しい薄黄色の花が咲いていた。行けども行けども続いて咲いていた。初めて見た花であった。あまりの美しさに感心し、2~3本草を折り取ったが、家に持ち帰った時にはぐったり萎れてしまっていてがっかりした。その花の名が“おおまつよいぐさ”であることはずっと後になって知った。

最近、近くの道端で見かけても子供の時のような感動は全く出て来ない。ただ不思議に子供の時の感動がそのたびによみがえってくる。だからどうしても一度は絵に描いてみたかった。

この絵を描いたのは、例のごとく神代植物公園である。この植物は、もともと明治初年にアメリカから園芸植物として輸入されたのだそうだが、繁殖力旺盛でやがて全国に広がって野生化し、今はそこらの土地に雑草のように生えている。別名“月見草”と言うから、もっと可愛がってやってよさそうに思う。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。