2008年5月号(第54巻5号)

〇ある日帰宅すると、玄関脇の外灯に挑むような体勢で天井にへばりつくヤモリを見つけた。体調は約6センチといったところだろうか。ヤモリの全長が10~14センチということからすれば、まだまだ可愛らしいサイズである。驚かせないようにそっとドアを開けて中に入り、ドア上部にある明り取りのガラス越しにヤモリを眺めた。ヤモリの雌雄は尻尾の付け根が細いのがメス、膨らんでいるのがオス……とすると、すらりとしたその姿は間違いなくメスである。

ヤモリは夜行性で灯のそばなどに集まる虫を捕食する。じっと獲物を待つ姿は、内心おどおどとして胸を高鳴らせているようにも見えるが、己の力を過信した狡猾な小型恐竜のようにも見える。爬虫類は苦手だが、こうしてみるとなかなかキュートで目が離せない。

〇ヤモリは世界中に1000種類以上が分布しているそうだ。よく見かけるニホンヤモリは外来種だそうで、木材などに付いて貿易船で運ばれたと考えられている。

“ヤモリがいると家に災いが起きない”という言い伝えに由来するその名は、漢字では「家守」、「守宮」の文字で表される。また「壁虎」という名もあり、世間の評価はなかなかのようである。

姿かたちがイモリと似ていることから混同されることも多いが、ヤモリは爬虫類で民家やその周辺などの陸地に棲むのに対し、イモリは両生類で池、沼、水田、小川などの水中や水辺に棲んでいる。イモリが「井(井戸の意)守」と書き表されることからも、陸と水、夫々に分かれて生息していることが明らかである。

〇ニホンヤモリの学名はええと……“Gekkojaponicus”!これってひょっとして?と思った期待が裏切られ、“Gekko”がヤモリの鳴き声に由来すること知って大きく落胆した。なぜなら、夜行性の彼女には、それよりも“月光”という名前のほうが数倍ロマンチックだからである。彼でなく彼女なのがいささか残念だが、月夜の晩の再会が待ち遠しい。

(大森圭子)