2008年4月号(第54巻4号)

〇桜の花に目を奪われている間に、木々の新芽は美しく生えそろっている。透き通るオーガンジーのような、天から吊り下げられた霧雨のカーテンの向こうで、風に揺らぐ新緑はあまりにも清らかで美しく、見ているものの心もリフレッシュしてくれる。

〇新緑に誘われ旅に出るには絶好の季節となった。旅の想い出には到着地でのさまざまな経験もあるが、道中に食べる弁当もまた旅の想い出に一役かってくれる。

4月10日は「駅弁の日」だそうで、「4」と「十」を上下に合わせると「弁当」の「弁」の字に似ていること、「弁当」の「当」の字は「十」と読めることがその理由である。「駅弁」と呼べるものは(社)日本鉄道構内営業中央会の会員が製造しているものに限られるそうだが、駅の構内ではその他たくさんの弁当が売られている。最近では、空港で売られている弁当は「空弁(そらべん)」、高速で売られているものは「速弁(はやべん)」と呼ばれ、デパートやスーパーでの駅弁大会にも顔を並べ人気を分かっている。

〇駅弁の始まりは、明治18(1885)年7月16日、日本鉄道宇都宮駅にて売り出した弁当(握り飯に黒ゴマをまぶせたもの2つと沢庵を竹の皮に包んだもの、金五銭)を最初とするのが通説だが、その他にも梅田駅(現大阪駅)、神戸駅、高崎駅、上野駅などでそれより前に駅弁を売り出していた、という説もあり真偽のほどは定かではない。

海の幸、山の幸、その土地ならではの名産品をとりいれたものはもとより、事前に電話予約をすると座席まで配達してくれる高級弁当、生石灰と水の反応熱を利用して温められるものまであって、握り飯だけの時代に比べ、なんと多様化したことか。駅弁発祥の地とされる宇都宮駅でも、餃子、ヒレカツ、茶飯など数多くの弁当が売られている。

〇本来、旅では長時間拘束されるのが当然であり、食事時間がそれと重なるために駅弁が用意されたのだが、交通手段が発達し移動時間が短縮されてもこの楽しみを諦めるには惜しい。電車に乗り込むやいなや弁当の蓋を開けなければ間に合わなくとも、待ち時間にいやおうなしに目に入るズラリと並ぶ弁当の魅力を前にいつも勝ち目はないのである。

(大森圭子)