2008年4月号(第54巻4号)

色紙に描く季節の草花

ぼけ(木瓜)

この色紙の絵を描いた頃、草木の花の中で一番ひきつけられたのがこの木瓜であった。ぽってりした花の形、その色合い、花弁の艶、所狭しと寄せ合って花が密生して咲くのを見ると、たまらなく愛らしく思った。その上幹がすべるように表面が滑らかで、そしてまた枝ぶりが見れば見るほど格好が良い。勢いがよい。前の年に剪定してあると、とんでもない方向にも枝が出る。

大好きな木瓜の木を三鷹市農協で求め、買ってきて庭に植えた。最初の1~2年は期待通りのよい花が咲いたが、その後はなんとなく色艶が減ってきた。園芸書をみると、木瓜は一日中日当たりのよい場所に植えるのが大事だと書いてある。なるほどとうなずけた。神代植物公園に行っても、正面の門を入り眼前に開けるつつじの大群の中にところどころ集めて植えられている。そこなら100%日当たりがよく風通しも良い。陽性な植物なのだ。

NHKのテレビで紹介していたが、アメリカ東北部ニューイングランドで、絵本作家の老婦人ターシャテューダーが、思い立って広い敷地を買い、多くの草花を植えて立派な植物園のようにしたが、ひとつの植物を植えるのに条件の違う場所を3箇所選んで植えると、一番あったところで良く育つと言っていた。素人園芸のこつはそこにあるのだろうが、広い土地が必要であり、うらやましい話である。

この色紙絵を描いた頃は、描き方の要領を会得していた。木瓜の枝ぶりや花つきが一番良い場所を探す。ほれぼれするほど良いのが見える場所が決まれば、しめたもので、もう気に入る絵が描けること請け合いである。そこに携帯用椅子を据える。その場で墨をする、色紙を前におき、細い面相筆に墨をつけ、いきなり本番で描きはじめる。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。