2008年4月号(第54巻4号)

をんな路

浜松医科大学名誉教授 菅野 剛史

神社・仏閣の急な斜面の横になだらかな斜面で「をんな路」が設定されているところが多い。東海道にも少なくとも3つの「をんな路」がある。一つは姫街道と呼ばれる出女に厳しかった新居関を迂回した気賀の関を経由する「をんな路」であり、これを主題として静岡新聞に連載された平岩弓枝さんの「水鳥の関」がある。新居の渡しを挟んだ男女の物語は現実味を帯びて余りにも物悲しい。二つ目は、東海道で唯一の船渡しであった七里の渡しを避けた三里で渡しと呼ばれた佐屋道である。この道は、木曽川を経由し、七里の渡しの半分で済む舟道の短い佐屋の渡しであり、船酔いと女性にとっては厳しかった用便の我慢を避けることでも重要な「をんな路」であった。最後の三つ目は鈴鹿を避けた美濃路を一部迂回する美濃路である。浜名湖を迂回する姫街道だけが人為的なものであり、残りは女性の体力であるとか、女性をかばった「をんな路」であったことが理解できる。

さて、本題はこれからである。2006年に機会があり70万余人の集団から性別、年齢別の基準範囲を求めることができた。結果はほとんどの検査項目で性差・年齢差が存在したことであり、このような現実を真摯に受け止める必要があることであった。「をんな路」は厳然と昔から存在するのである。臨床検査医学を学ぶものは、率先して「をんな路」の存在を広報し、測定値の施設間差は解消しつつあることも広報し、現実の「をんな路」を知ってもらう必要がある。この中で、最も注意すべきが、アルカリ性ホスファターゼの若年者での男性が高値を示す男女の性差と、高齢者女性での女性に優位な男女の性差であろう。クレアチニンでの男性の優位、尿酸での男性の優位などは指摘はされていても具体的にそれらの差は明確に利用されていなかった。わが国の各所で性差、年齢差を明確にした基準範囲が提示されつつある。検査医は率先してそれらの実態の指導に当たるべきであろう。