2006年7月号(第52巻7号)

〇千利休が残した「利休七則」は茶道の心得ではあるが、茶道をたしなまない人にとっても学ぶところは大きい。その教えの一つ「冬はあたたかに夏は涼しく」は、冬の寒さ、夏の暑さを凌ぎやすくするためのしつらえの大切さ、もてなしの心を教えてくれている。

四季のある日本では季節のうつろいに添い心地よく暮らせるよう、長い歳月をかけてさまざまな工夫が凝らされてきた。日本家屋での障子や襖には防風や保温、湿度調整等の効果があり冬には重宝。夏になればこれらは簡単に取りはずせるうえ、かわりに簀戸を入れ、御殿簾をかけて風をふんだんに取り入れることができる。簀戸や御殿簾は目隠し効果もあるうえ、見た目にも涼しき優れものである。もちろん自然の涼しさには限界があるが、それに加えて巧みをこらし、目にも耳にも涼を感じ取ろうとするひたむきな努力が日本人の豊かな感性や文化を培ってきたのである。

夏ともなれば厳しい暑さのなか、皆で気まぐれな風に期待し、陽が翳るのを待ちに待って過ごすものであったろう。同じ苦楽をともにしてこそ連帯感は生まれるというもの。そのうえ、仕切りを解放すれば他家との距離感が縮まり、互いの生活も見え隠れして、自ずと他人に向けて気遣いの気持ちも育まれたであろう。縁台で夕涼みをしながら通りすがる人と会話をすれば、人へのあたたかな気持ちが湧いてくる。家の前に打ち水をするのも、我が家を涼しくするとともに通りを行く人や家へ招いた人への心配りである。自然を締め出すように窓やドアを閉ざし、スイッチひとつで快適な空間にこもってしまう現代ではなかなか難しいが、忘れてはならない大切な心である。

とかく閉鎖的になりがちな世の中ではあるけれども、たまには自然に身をゆだね、心のしきりもはずして、自然や人と共生している実感を味わうのも悪くない。木々がせっかく枝葉を精一杯伸ばして心地よい木陰を作ってくれている。時折心地良い風も吹くだろう。自然は厳しい環境を与える反面、やすらぎやふれあいのチャンスを同時にあたえてくれていることに感謝したい。

(大森圭子)