2006年7月号(第52巻7号)

心に残る、山と花

コマクサ

コマクサは、他の植物がとても生活できないような花崗岩質の高山帯の砂礫地にだけ生えます。小型の多年草で、淡紅色の特有な形の花や繊細な葉は高貴な感じがあって、気品と生える場所の厳しさとから高山植物の女王と呼ばれています。ケシ科の花で、花茎は高さ5~15cmで淡紅色の花が1~7個つき、花弁は4個で外側と内側に2個ずつつきます。蕾を横から見ると馬の横顔のように見えることからこの名がついています。昔は、花の美しさよりも薬草としての価値が高く、古くから腹痛の妙薬として知られていました。

山には可憐な高山植物がたくさん咲いています。特にその山にしか咲かない特産種も多く、北岳のキタダケソウ、早池峰山のハヤチネウスユキソウ、木曽駒ヶ岳のコマウスユキソウ、鳥海山のチョウカイフスマ、白馬岳のシロウマアサツキ、夕張岳のユウバリコザクラ等々と多種多様、咲く時期は大体7~8月に集中していて、これらの主な写真を集めるのは最短でも十年はかかります。

コマクサに初めて出会ったのは大雪山で、層雲峡からロープウエーとリフトを乗り継いで黒岳の七合目まで行き、そこから約2時間で黒岳頂上に着きます。その先黒岳石室に向かう途中からコマクサの群落に迎えられました。初めて見るコマクサはとても初々しく、色といい、特異な形といい、まさに高山植物の女王と呼ぶにふさわしい花でした。その後、八ヶ岳、燕岳、草津白根山、秋田駒ヶ岳、蓮華岳などで出会いましたが、大雪山のコマクサが花の大きさと数とでは一番見事でした。

写真は北アルプス蓮華岳(2,799m)で撮ったもので、コマクサにカメラを向けていると5~6羽の雛を連れた親子の雷鳥が登場しました。あまりの可愛さにすっかり見とれてしまい、こちらの方もしっかりと写真を撮らせていただきました。

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数