2006年5月号(第52巻5号)

〇五月の雨と書いて「五月雨(さみだれ)」と読む。松尾芭蕉の「五月雨を集めて早し最上川」はあまりにも有名な句であるが、この句が詠まれた江戸前期はまだ陰暦であるから、現代の太陽暦とはひと月以上のずれがあり、「五月雨」とは今でいう6月頃、梅雨どきの雨を指すものである。

芭蕉には、「五月雨や年々降るも五百たび」という句もあり、雨の中にそば立つ中尊寺光堂の歴史の重みを、毎年変わることなく梅雨どきに降りそそぐ雨をもって極めたようである。

しかしながら、今年の5月は陰暦に戻ったがごとく雨の降る日が多く、せっかくの爽やかな季節が雨に削られて閉口した。

このところ、長い年月のなかで規則づけられていた気象が少しずつ崩れつつあるように感じられる。この秀句が後世でも通用するとよいのだが。

(大森圭子)