2006年2月号(第52巻2号)

〇相変わらず厳しい寒さが続いているが、冬も大詰めである。大暴れをした冬将軍の余力はいかばかりか気になるところではあるが、たてかけられた箒のような枯れ木にもはやり立つ生命力が感じられ、まだ小さな花芽もひっそりと色味を帯びて、間もなく幕を開ける春の舞台の準備は着々と整っているようである。

〇京都に行ったらいっぺん片泊まりの宿に泊まってみるといいと教わり、無性に京都に行ってみたくなった。片泊まりの宿とは、町屋を改造した一泊朝食つきの宿のことである。江戸時代の一時期、京都では間口の広さが課税の基準とされたことから、間口を狭く、奥行きを長くとったうなぎの寝床式の住居や店舗が軒を連ねて建てられた。これが町屋である。江戸時代には殿様の行列を見下ろさぬように1階建てに限られたが、明治に入り2階建てが許されるようになると、神棚より上に人が住まぬように茶の間を吹き抜けにしたり、2階に明かり取りの虫籠窓が作られた。他にも家のなかが薄暗くならぬように中庭が設けられるなど様々な工夫が凝らされている。宿泊した宿は明治以降に建てられたのか2階建て、客室は2階の4室のみ。部屋のふすま戸には気休めのような鍵がついているが外からは鍵がかけられない。とはいえ、おかみの「泥棒さんはうちにははいりまへんので」という言葉が素直に信じられる静かで平和な空間である。小道を抜けるとすぐ向こうに祇園の繁華街が広がっているとは少々信じ難い。家屋の町屋情緒を堪能し、朝は京都の気取らない家庭料理・おばんざいとおかみとの会話に心まであたたまり、夜になれば予算と好みに合った夕食を求めて街中へ。ただし、宿には内風呂が無く、戻った順が風呂の順番となるため、あまり羽を伸ばして帰ると夜遅くまで風呂の空き待ちとなるので要注意である。

折しも、日本一の高さを誇る五重塔がある南区の東寺では、弘法大師・空海の命日に因んだ「初弘法」が開かれており、今年1年の無病息災を祈る参拝客と縁日の1,000を超える露店目当ての買い物客が境内に溢れていた。講堂の立体曼荼羅をしげしげと眺め、お坊様たちのありがたいお経に手を合わせてきたので、今年はこのご利益に期待したい。

(大森圭子)