2005年9月号(第51巻9号)

〇秋晴れのお天気に恵まれた休日,2泊3日で山形,秋田,岩手を駆け足でまわった。初日の山形では,出羽三山のひとつ羽黒山へ直行し,凛として立ち並ぶ杉木立のなかの2,446段の表参道石段を一途に下った。ここでは,山の麓にある隋神門から山頂を目指すほうが通常のコースであるらしく,涼しい顔の私は,額に汗を浮かべた方たちの呆れ顔と何度もすれ違うこととなった。石段の麓にほど近いあたりで樹齢1000年ともいわれる爺杉を目にし,崇敬の念をおぼえた。爺杉の周りにはロープがめぐらされ,それ以上近づくことは出来ないのだが,同じく爺杉を見物されていた方が,「昔は爺杉に触れることができ,太い幹に耳を当てると,根っこから木のてっぺんへと一生懸命に水を吸い上げる音が聞こえたんですよ」というのですっかりその気になり,わくわくしながら目についた杉の木に蝉のようにはりついて耳を当てたが,残念ながら何も聞こえなかった。果たして爺杉ではその音が聞こえるのだろうか。

二日目の秋田では鳥海山獅子ケ鼻湿原へ行き,ブナの原生林や湿原に生息する数多の植物に目を配りながらくねくねと歩き回った。奇形ブナの林では,ブナはまるで魔法にでもかけられたように曲がりくねっていたし,豊かな湧き水のなかには,鳥海まりも(ムラサキヒシャクゴケの希少種)とよばれる碧巖が麗しい緑色の長い毛足を清流にそよそよとなびかせていた。いつまで見ていても飽くことの無い不思議な世界,御伽話の世界に迷い込んでしまったかのように,すべてが神秘的であった。

こうして,山形,秋田での美しい自然にふれる旅が終了。よほど印象が強かったらしく,東京へ戻ってからも美しい景色の記憶は鮮やかに蘇り,いつでもすがすがしい景色のなかに心を置くことができるようになった。

(大森圭子)