2005年6月号(第51巻6号)

〇関東では梅雨らしいすっきりしない天気が続いている。この時期は,冷房をつければ薄ら寒いし消せば薄ら暑い。誰かがスイッチを入れると誰かが消して,その繰り返しをしているうちにいつの間にか皆で風邪をひいていたりする。ふと鏡を覗くと,冷房の風でドライアイとなり,目の血走った恐ろしい形相になっている。“クールビズ”とはいうものの,いつぞやの“省エネスーツ”同様あまりその姿をお見かけしないが,せっかくの夏を目前に体調を崩さぬよう冷房のつけすぎにはどうかお気をつけください。

〇この頃になると野菜売り場に山盛りのラッキョウが登場する。漬け方も分からず,毎年横目で見ながら通り過ぎていたが,有り難いことに先日,大先輩にあたる元モダンメディア編集人からラッキョウの漬け方を教わることができた。塩漬けにする場合には,何しろラッキョウを買いさえすれば,あとは洗って皮を剥いて塩で漬ければよいだけだそうで,すぐにでも食べられるとのこと。これならめんどうくさがりな私にぴったりである。

〇ラッキョウは中国原産のユリ科の多年生草木である。民間療法としての効能も多く,ただすりつぶしたものは血止めに,それに蜂蜜と混ぜると火傷の薬にもなる。他にも煮て食べれば下痢止めとなり,そのほか血液をサラサラにする効果もあるとされている。日本での歴史は古く,平安前期の「新撰字鏡」に“メシラ”という名で初見され,江戸初期の農学書「農業全書」や貝原益軒の「大和本草」にも“ラッケウ”の名でその栽培法と利用法が記されているそうである。

「花ラッキョウ」というと特別品のいい響きがあるが,これはラッキョウの端(ハナ)を切ることからこういわれているのだそうだ。また,ラッキョウの親戚のような「エシャレット」は,ラッキョウを早取りしたもので,フランス野菜の玉ねぎの変種「エシャロット(シャロット)」に名前を似せているが無縁なものである。

かくして塩漬けラッキョウを作ってみたが,数限りないラッキョウの皮を剥くのに少しばかり忍耐を要した。とはいえ母の手を借り,仲良しの猿の親子のようにラッキョウの皮を剥き剥きともに時間を過ごすというのもなかなか静穏で心地よいものであった。

(大森圭子)