2004年11月号(第50巻11号)

〇月日の流れを止める関所の番人はいないという意味で「月日に関守なし」という諺がある。11月も半ばを過ぎると,「忘年会」,「クリスマス」,「年賀状」などの言葉をしばしば耳にし,楽しくもあるが厳しくもあり,年末に向けて駆り立てられるような気持ちが湧き上がってくる。痩せたカレンダーや手帳の残りを眺めては,さらに追い討ちをかけるであろう時の流れに今年分の宿題を浮かべてみては,少々焦りを感じるこの頃である。

〇私が何度も沖縄を旅する密かな楽しみのひとつに「海ぶどう」がある。「海ぶどう」は沖縄本島,宮古島などの限られた海域に生息する海藻の一種で,茎から分かれた小枝には美しい深緑色をした半透明の球状の葉が集まって付いている。正式名は「クビレヅタ」だそうだが,プチプチとはじける食感と海藻特有の磯の匂いが楽しく,球状の葉はきらきらと輝いて「グリーンキャビア」という別名然り,何か特別な食べ物を食べているという優越感に浸ることができる。

海藻の種類は約8000種,日本近海には約2000種が生息している。日本人は古代より好んで海藻を食している民族で,古代の法典である「養老律令」や「延喜式」ではすでに税金代わりに納められた食材として海藻が多くあげられている。なかでも最も価値の高いものとしては,塊のまま乾燥させた「のり」があげられているそうである。

江戸時代,のちにいう佃島に集められた漁師たちが竹や木を立てて生け簀としていたところ,これにのりが付着して繁茂していることを発見した。これをきっかけにのりの養殖が行われるようになり,さらに再生紙の産地であった浅草で,生のりを細かく刻み,水と混ぜ,この紙抄きの技術を使って「干しのり」が作られるようになったという。「のり」の呼び名はぬるぬるするという意味の「ぬら」が訛ったものだそうだ。沖縄名産の海藻には「アーサのり」という岩海苔もあり,これが入った味噌汁がたいへん美味しかった。乾燥品を土産に買って試したところ,思いもよらぬ量にふやけ,忽ちぬらぬらとした海苔のおかゆになってしまった。

向寒のみぎり,ビタミンやミネラルを豊富に含む海藻類を美味しく食べて,多忙な日々を健康に過ごしたいものである。

(大森圭子)