2004年10月号(第50巻10号)

〇今年は招かざる台風がひっきりなしに我が国を訪れ,残念ながらゆっくりと秋の景色を楽しむ機会が少ない。今こうしている間にも今年10回目の台風がもたらす雨がざあざあと降り続いているし,さらなる台風の発生情報もあり,上陸台風の数は記録更新中である。しかしながら雨にばかり気をとられていると,美しい季節は知らぬ間に過ぎ去ってしまう。傘の中から精一杯仰ぎ見ると,傘の縁でアーチ型に切り取られた景色のなかで,いつの間にか色を変えた木々の小さな葉は,雨に濡れて七宝焼きのブローチのように愛らしいし,頬に感じる秋風の冷たさは,かえって心のあたたかさや自然のぬくもりを懐かしく思い出させてくれるようである。雨のせいで心の奥にまで秋が滲みてくるのかも知れない。

〇数年前の秋の日,山形出身のご婦人方に連れられ,河原での芋煮会に参加した。芋煮会とは,東北地方を中心に各地で行われている秋の行事で,友人や家族で河原に集い里芋を煮て食べるという,もとは神の恵みに感謝する農耕儀礼である。里芋の原産は南アジアであるが,日本には,中国を経て奈良時代に渡来したとも,縄文時代に日本人のルーツとともに渡来したともいわれている。稲が渡来し米が主食となる以前には,里芋を葉で包んで蒸し焼きにしたものを主食としていたという説もある。自然薯,長いもなどの山でとれる芋に対して,里でとれる芋であることから里芋の名がついているそうだ。コロコロとした土垂や石川早生,海老のようにしなった海老芋,どこかおどろおどろしい八つ頭,京いもとも呼ばれる筍芋,いつも芽が赤いセレベスなど,種類が豊富で個性派揃いである。

〇とにかく,大鍋で煮られた里芋はとても美味しい。友人達に芋煮会の話をしたら,とっても乗り気。いつも食べる専門の私が作り手に回るのか,やれやれ困ったことになった。「芋煮会セット」なるものもいろいろと出回り,インターネットで簡単に手に入るようなのだが,里芋,長ネギ,茸,こんにゃく,豚肉,牛肉などを甘辛く煮付ければなんとかさまになりそうな気配。下ごしらえをしてえいやっと材料を大鍋に放り込んだら,あとは参加メンバーの運に頼るしかない。

(大森圭子)