2004年10月号(第50巻10号)

山のスケッチ

仙人池秋色

ペン+水彩(23.8 × 19.1cm)

裏剣と呼ばれる仙人山や池ノ平の一帯からは剣岳の北東面の素晴らしい景観が得られる。なかでも仙人池からの八ッ峰から小窓王に連なる岩峰群の眺めは,日本で最もアルペン的な風景のひとつである。秋には池は美しい草もみじと紅に燃えたつナナカマドに囲まれ,その水面に三ノ窓雪渓を前景とした鋭角的な岩のスカイラインを倒影する。

40年も前の夏,剣沢合宿の帰途,近くの池ノ平に一人で幕営したことがある。食糧などを持って来るはずの後発の連中は,豪雨のために引き帰してしまい,夜半に烈しい風雨の中を一人でテントを撤収して,池ノ平小舎に逃げ込んだ。濡れた衣服のまま,スシ詰めの小舎でみじめな一夜を過ごした。

それに引きかえ,今日は秋の陽のさんさんと降るしじまの中での至福のひとときである。雲ひとつない空はあくまで青いが,少し風が出て来て池にうつる八ッ峰のかたちが崩れてきた。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ