2004年7月号(第50巻7号)

〇厳しい暑さに夢の間に間にエアコンのリモコンを手繰る夏の宵が続く。暖められたり冷やされたり,風味が損なわれるのはなにも冷凍品ばかりではない。7月も末ともなれば夏特有の倦怠感が体に霜のように貼りつき,人だってくたびれ気味になるのである。

〇本誌は来月8月が誕生月である。今年はとくに発刊から50年を数えることから記念号を発行する予定で,その準備を進めている。編集の関係で古い資料を引っ張りだして歴史をひも解く機会も多くあるのだが,行き着くところはいつも,本誌を創り,育て,支えてくださった皆様方のお力の偉大さとそのお力の源となっている情熱である。最近は生活様式の変化から,自分の感情を表現したり気持ちや考えを話すことができない子供が増えていると聞く。しかし私とて同じで,日々の生活のなかでいつの間にか感情を調整する癖がつき,自分自身にさえ本当の気持ちを伝えることがへたになった気がしてならない。真っ直ぐな情熱を失わないことが何より大切なことであると先達者の足跡にあらためて教えられる日々である。

〇本誌誕生月が迫る一方,自分の誕生日が近づいた。この頃になると決まって自分を省みて水の切れた植木のようにいじけてしょげた状態となる。希望に溢れ,輝くような若さの魅力も持たず,沢山の経験を積み,じっくりと実力を蓄えた大人の魅力もまた持ち合わせていない自分はなんと中途半端な存在なのだと。しかし,敬愛するラ・ロシュフコーがこんな言葉を残してくれている“何かを強く欲する前に,現にそれを所有する人がどれだけ幸福かを確かめておく必要がある”と。海外には“Everyone thinks his sack heaviest”という諺もある。羨ましいと思える相手に成り代わってみればそれはそれで大変なご苦労があるものなのである。隣の花はどうしても赤く見えるものだけれど,やはり人を羨ましがらず,幸福と思える自分のスタイルを創るためにこれからもスローペースで歩むことにしよう。

(大森圭子)