2004年7月号(第50巻7号)

山のスケッチ

雲湧く摩利支天

ペン+水彩(23.8 × 19.1cm)

摩利支天は南アルプス,甲斐駒ヶ岳の南に前衛として聳える花崗岩の巨大な岩峰である。山にはそれぞれの主峰にとって,なくてはならない脇役がある。それは仏像でいえば,脇侍に当たるもので,甲斐駒の摩利支天はまさしくそれである。摩利支天とは,もともと陽炎を神格化したインドからの渡来神だが,のちに仏教に取り入れられ,八部衆のひとつとなった。常にその形を隠し,衆生の障難をとり除き,利益をもたらすといわれる。

甲斐駒と摩利支天は日野春あたりの中央線の車窓から見ても見事であるが,その全貌を間近に望むことが出来る場所は,なんといっても仙水峠である。北沢を遡行し,岩の累々と積み重なったガレ場を登りつめて峠に近づくと,ダケカンバの林の上に甲斐駒と摩利支天がその圧倒的な量感を見せて姿をあらわす。ここからの眺めは摩利支天がむしろ主役で,甲斐駒が脇役の感じさえする。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ