2004年6月号(第50巻6号)

〇巨大スポンジにたっぷりと水を含ませたような重たい曇り空から,いつ終わるともなくしとしと雨が降り続く梅雨どき。しかし今年は真夏を思わせる天候に恵まれることも多く,気分転換よろしくそれほどの鬱陶しさは感じない。しかし,続く晴天の不意を突くように雨が降るため,この梅雨だけでしぶしぶ3本もの傘を買うはめとなった。間もなく梅雨が明ける。我が家の傘の数もこれ以上増えることはないだろう。

〇先日,会社の後輩がめでたく結婚することになり,結婚披露宴へお招きにあずかった。美しく飾られた会場や美味しいご馳走もとても素敵であったが,何より,主役のお二人とご家族の人間的なあたたかみがいつまでも皆の心に残るような,誰もが二人の幸せを願って止まない本物の結婚披露宴であった。ウエディングドレスに身を包んだ彼女はとても初々しく幸せそうで,思わず胸が熱くなった。年のせいか最近涙腺がゆるみがちなため,せっかくのマスカラが落ちぬよう目を見開いた恐ろしい形相で彼女を見守った。

〇6月の花嫁は特別にジューンブライドと呼ばれ,この月に結婚した花嫁は幸せになれるといわれている。

暦の元となるローマ暦では,6月の月名は「Junius」。これは,ギリシャ神話の主神ゼウスの妃である女神ヘラに由来してつけられている。ヘラのローマ名「ジュノー(Juno)」の月という意味で,「Junius」である。ジュノーは女神の最高位であり,婚姻と女性,子供の守護神とされる。このことから,この月に結婚すればこの女神の加護を受け幸せになれるというのが主説のようである。しかしほかにも,ヨーロッパでは3~5月の結婚が禁じられており,6月の解禁で多くのカップルが結婚したことに因むとする説,豊作の神とされる5月の女神マイア[ローマ暦の月名はMaius]が自分の月に結婚することを嫌うという伝説に因むとする説などさまざま。なかでも,ヨーロッパの6月は一年中で雨が一番少なく,季節的に最良であることからとする説があり,6月が梅雨にあたるわが国にとっては少々皮肉なことである。

第二次世界大戦後,このヨーロッパの伝承がわが国に伝わって以来,ぬかるむ道にお着物の裾を汚したり,着替えや引き出物の大きな包みと傘を相手に奮闘が繰り広げられてきたのだと思う。しかし,苦肉の策ともいえるスピーチの定番「雨降って地固まる」は,すでにわが国のジューンブライドを理由づける立派な伝説ともいえる。いずれにしても,新たに結ばれたカップルに大いに幸せになっていただきたい。

(大森圭子)