2004年2月号(第50巻2号)

〇今年の冬は比較的あたたかいとの予報どおり,いつもの厳しい寒さに比べると随分と楽である。
時折,春の日を思わせるほどに寒さがやわらいだ日には,厳しい季節をはしょって春を迎えたような錯覚に喜んでだまされることにしている。2月の季語である「余寒」がぴたりと当てはまるようなやさしい2月である。

〇2月3日は節分である。地域によって違いはあるが,おだやかな春を迎え,新しい一年を無病息災で過ごせるよう,扉に鰯の頭とひいらぎを飾り,豆を撒き,邪気や災いを追い払う,というのが一般的な風習のようである。

この風習は,中国から伝わった弓を用いて邪気を追い払う行事「追儺(ついな)【鬼遺】(おにやらい )」と陰陽五行道の「豆打ち」の儀式が融合したもので,わが国では古く文武天皇が初めて追儺の儀式を行ったとされ,室町時代になってから豆を撒くようになったとされている。

扉に鰯を飾るのは,鬼が鰯を焼いた匂いを嫌うと考えられていたためで,ドラキュラにおけるにんにくと同じ発想である。一方,豆には,豆などの穀物や果実には邪気を追い払う霊力があると信じられていたことから豆が撒かれるという説(豆以外にもかち栗やみかんなどを撒く地域もあるらしい),豆を撒くのは鬼の目をつぶすため(「魔目」を滅する→「魔滅」という発想)とする説,豆を撒く音に邪気を追い払う力があるとする説など,さまざまである。

子供の頃,節分の日に住職である幼稚園の園長が境内でみかんを撒き,割れて砂利がついてしまったみかんを拾い,食べていいものかどうか心底悩んだ思い出がある。その頃から食いしん坊の芽は育っていたようだ。

(大森圭子)