2004年2月号(第50巻2号)

山のスケッチ

朝焼けの仙丈岳

ペン+水彩(23.8 × 19.1cm)

南アルプスの北端に位置する仙丈岳は大きな山である。根張りの豊かなその山容は,頂上付近の三つの大きなカール(圏谷)によって,ひときわ懐の深い量感を感じさせる。

3000米を超える標高を持ちながら,剣や穂高のような険しさや厳しさのない優しい山である。

仙丈岳はまた奥深い山である。甲州からは望むことが出来ず,伊那谷の一部からしか見えない。この山はやはり野呂川をへだてて早川尾根から望むのが最も良い。

仙水峠から南の栗沢山へ少し登ると,小仙丈カールが正面に見え,陽がのぼるにつれて白銀の山頂が紅に染まり始める。山腹にかかるこちらの山の陰影は,たちまちのうちに下へ動いてゆく。このような朝焼けの山を描くのは難しい。動きの早い陰影は写真を撮るのと違って,特に始末が悪い。このあたりまで陰影のある構図でと,あらかじめ考えておくのだが,上手くゆかないことが多い。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ