2022年4月号(第68巻4号)

〇寒さに耐える長い季節が終わる頃となり、わずかに残る冬のかけらは見ないようにしながら、春の気配を探しているうちに、本物の春が訪れた。東京では、見事に咲いた桜の花を賛美するほんのわずかな期間は終わってしまったが、潔く散っていった桜の花びらの美しい幕が開けると、春の舞台と、それを愛でる客席であるわたしたちの世界が、明るい春の日差しに一気に照らされるようになる。
 誰にとっても、何かと新しいことに向かう機会が多い季節、一歩踏み出す足元を明るく照らし、あたたかい日差しが背中を押してくれる春。自然の営みがいつも力をくれることに感謝したい。
〇日差しが強くなりだした途端、日傘をさして歩いている人を見かけるようになった。
 「かさ」 というと 「傘」 が思い浮かぶが、ほかにも「笠」 があり、前者が手に持ってさすもの、後者が頭に直接かぶるもので、「かさ」 は大きくこの二つに分けられる。
 閉じた状態のボロ傘に目鼻がついた妖怪の名前に「からかさおばけ」 があるように、さし傘の名前として、古くは 「からかさ」 という名前が使われていた。「からかさ」 の「 から」 の語源には、「柄」 であるとするもの、「唐からから舶来したこと」 や 「からくり」に由来するという説などがある。
枕草子に
「…からかさをさしたるに、風のいたう吹きて、横さまに雪を吹きかくれば、すこしかたぶけて歩み来るに、深き沓、半靴などのはばきまで、雪のいと白うかかりたるこそをかしけれ」
があり、貴族がまとう華やかな衣装と、そのうえに降りかかる白い雪との美しい調和を表している。またその一方で、風にあらがう傘のさし方での苦労が今と何もかわりないことも伺えて楽しい。
 私の世代では、折り畳み傘などが吹く風にあおられ、ひっくり返ることを 「おちょこになる」 といって、これは常識と思い続けていた。最近になって、若い世代の方には通用せず、聞いたこともない言葉であると知って呆然とした。
 読者の皆様にはいかがでしょうか。

(大森圭子)