2022年3月号(第68巻3号)

〇1 年間の季節を表す言葉に、 春・夏・秋・冬があり、それをそれぞれ6 つに分けたものが二十四節気である。二十四節気では年によって開始の日付が1 日ほどずれることがあるが、3 月5 日頃~ 3 月20 日頃のことを「 啓蟄」 とよぶ。
 「啓」 には、「拝啓」 などと使われるように 「申し上げる」 という意味と、これとは別に 「ひらく」 「開放する」 などの意味がある。一方、「蟄」 は 「執」 と「虫」 の漢字から成り立っており、「執」 は 「とらえる」 「守る」 などの意味、また部首として 「土」 の字があるので、土に関係する文字と読み取れる。これに虫という漢字がついて、冬の間、土の中に籠って寒さをしのいでいた虫が、だんだんと地面が暖かくなって春の訪れを感じ、穴をあけて這い出てくる頃という意味となる。
 とはいえ、この時期は寒さがぶり返すことも多く、ようやく這い出てきた虫が 「騙された」 と後悔しているのではないかと気の毒になるほどである。
〇3月になると、「 三寒四温」 という言葉を耳にする。もとは中国で冬の季節に使われていた言葉で、中国北部や朝鮮半島で、寒い日が3 日続くとそのあとの4 日は暖かい日が続くという寒暖の周期のことを表したものである。日本では同様の周期がみられることはほぼないようだが、春になると、低気圧と高気圧が交互に訪れるため寒暖の差が激しくなるので、この言葉のイメージと重なり、早春にこの言葉が使われるようになったようである。
 気象庁のホームページを覗くと、「三寒四温」 の分類 (予報用語・解説用語・使用を控える用語の3種類) は、「 解説用語:気象庁が発表する報道発表資料、予報解説資料などに用いる用語」 となっており、説明の欄では 「冬期に3 日間くらい寒い日が続き、次の4 日間くらい暖かく、これが繰り返されること。中国北部、朝鮮半島などに顕著な現象。」 と書かれていた。

〇春だ、春だ、本当に春だ。
 自分は歩きながらそう思った。
 自分は春が好きだ。
 昔は春になるとへんに寂しかった。
 お貞さんと分かれたのが春だったから。
 今は春らしいものはのこらず好きだ。
 (武者小路実篤「 春」 より抜粋)

 春の訪れを実感し、明るい日差しと生命の息吹に英気をもらう季節。一方で、「お貞さん」 ではないですが、別れの季節でもあり、新しい一歩を踏み出す心の準備をする季節でもあります。来月より新しい環境に移られる方も多くいらっしゃることと思いますが、新しい季節、新しいお立場でのますますのご活躍を心からお祈り申し上げます。

(大森圭子)