2022年1月号(第68巻1号)

〇新年おめでとうございます。
 昨年の1 月と同様に、長引くコロナ禍に油断をさない状況のまま、新たな年を迎えることになりました。心身ともに疲労は溜まっていきますが、世界中の人々が同じ状況、同じ気持ちで過ごした長い年月を通じて、人と人との連帯感や他国への気遣い、一人の行動が世界全体にまで影響を及ぼすことについての意識が高まったようにも感じます。また、自分が思っていたよりもっと家族や仲間を思う気持ちが深いことを知ったり、誰かのことを気遣い、誰かの健康や生活を守るために頑張ってくれている方々への感謝の気持ちを深めたり、このような時だからこそ気づけることも多くあります。
 ホラティウスの 『詩集』 に 「多くを求める者には多くのものが足りませぬ。」 (岩波文庫 「ギリシア・ローマ名言集 柳沼重剛編」) の言葉がありますが、不自由さを強いられる今の暮らしの中で、我慢する力が自ずと蓄えられていくにつれ、心の中にある様々な願望の真偽や良否を見分ける力も少しはついたように思います。自分に本当に必用なものの目利きになれれば、長いトンネルを抜けた先には心豊かな暮らしが待っていると思うこの頃です。
〇お正月の遊びに 「羽根つき」 がある。「ムクロジ」という木の果実の黒い丸い種に鶏の羽根を付けた「つくばね」 を、羽子板で打ち上げるか、2 群に分かれて打ちあう。様々なゲームが溢れている現代では、近所で遊んでいるところを見たことはないが、ひと昔前までは日本の伝統に触れたいという気持ちもあってか、お正月になるとどこかから「 カン、コン」という羽根をつく独特な音が聞こえてきた。
 羽子板にはほかに厄除けや飾り物として押絵などの華美で大きな「 飾り羽子板」 もあり、最近ではめっぽうこちらが中心である。玩具として使うのは、絵の具などで板に直接絵が描かれたものだが、古くから蒔絵を描いたものや、胡粉や金粉などを使った飾り用の羽子板も作られていたようだ。
 羽根つきの記録は 15世紀半ばの「 看聞御記」 が初見とされる。これによると、当初は羽根を落とすと罰として墨を塗るようなほのぼのとしたルールではなく、大人が賭けをする遊びであったそうだ。振袖を着た女性たちが、少々真剣な面差しで、美しい袖をゆらゆら揺らしながら羽根を付き合う優雅な情景を思い描くと、お正月に相応しく晴れ晴れしい気持ちになれる。今では賭け事にしてはご法度になると思うが、麗しい女性の顔に〇や×など墨が塗られるルールでなくて良かった。
〇本年が皆様にとってより良い一年になりますよう心からお祈りいたします。
 今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(大森圭子)