2021年10月号(第67巻10号)

〇今年は10 月半ばになって突然に気温が下がり、気づけばすっかり秋も深まっている。秋から冬へと傾きかける季節を謳歌するように、どこか遠くから、ビュウビュウと勢いよくやって来ては、体当たりを繰り返す乾いた風に、思わず上着の前を掻き合わせる季節となった。
 季節を愛でることや、年中行事を楽しむことができないなかでも、季節は確実に巡っていくことを実感するこの頃である。
〇新型コロナウイルス感染症が少し落ち着いてきたとはいえ、予防の手は緩められない。コロナ禍が長く続くなかで、変化しつつある様々な生活様式のなかでも、こまめな手洗いの習慣が定着しつつあることは大きな変化である。
 長く愛されている優れた物の誕生には、偶然から生まれた物も多くあるが、手洗いに使う石鹸もまた偶然の産物であったとする説がある。時は紀元前3000 年、古代ローマの神事として供物の羊を焼いていたところ、灰にしたたり落ちた羊脂が灰と混ざり合い、そこに雨が降って固まり石鹸の原形ができた。これが水では落とせない汚れをよく落とすことがわかり、意図的に作られるようになっていったという話である。それがサポーの丘という場所で、サボンの名前の語源ともいわれる。
 日本に石鹸が渡来したのは室町時代だそうで、サボンの名が訛ったともいわれるシャボンの呼び名が長く親しまれている。石鹸が渡来した当初は大変高価なもので、一般の庶民が使えるようになったのは1900 年代になってからのこと。「シャボン玉とんだ屋根までとんだ…」 でお馴染み、詩人の野口雨情と作曲家の中山晋平との名コンビでできあがったで「シャボン玉」 は1922 年に発表された曲である。こちらも一説によると、野口雨情が亡くなった子供の追悼のために作った歌ともいわれる。命を守る石鹸の歌が鎮魂歌であるというつながりにも、なにか深いものを感じずにはいられない。
 ユニセフのホームページによると、2008 年の国際衛生年の年に、ユニセフなど、水と衛生の問題に取り組む国際機関や大学、企業などにより、10 月15 日が「 世界手洗いの日( Global Handwashing Day)」 と定められた。感染症から身を守るための身近で効果的な手洗いも、国によっては十分な手洗いができない環境にある子供たちも多くあることに心が痛んだ。

(大森圭子)