2021年8月号(第67巻8号)

〇在宅にて仕事を終えたある日の夕方、わが家の前で大小2 つの足音がピタッと止まり話し声が続く。少々気になり窓の外を覗くと、お母さんと子供が空を見上げて指をさし、何やら驚いた表情で話をしている。大いに気になり見ている方角に目を遣ると、見慣れない鳥が電線に泊まって声高らかに鳴いている。お世辞にも可愛い囀りとは言えない大空に響き渡るような大音響。傍を飛ぶスズメの何倍にもなろうかという巨体だが、ほぼ体全体が鮮やかで艶のある黄緑色の羽根に覆われており美しい。
 以前ニュースで、ペットのインコが野生化したという話を聞いたことがあり、調べてみると 「ワカケホンセイインコ」 という名前の鳥だとわかった。国立環境研究所のホームページには 「侵入生物データベース」 というページがあり、ここに分類されていた。全長は約40cm、自然分布は 「インド、パキスタン、スリランカ」 であり、「日本にはペットとして輸入したものが、大量に逃亡したと考えられる」と書いてあった。
 聞きなれない「 侵入生物」 という用語については、別のページに 「人間によって自然分布地域以外の地域に移動させられた生物」 とある。ドバトなど、はなからどこにでもいるのだと思っていたが、大和、飛鳥時代に供養として空に放たれたことで生息地を広げたとされ、侵入生物に分類されていた。鳥類では他にペットとして人気のあるダルマインコやセキセイインコ、ブンチョウの名もあり、愛玩用や鑑賞用に輸入されたものが捨てられたり、逃げたりしたことを理由とするものが多く目についた。これらの鳥たちも、農作物に被害を及ぼし、病気の媒体となるなど悪影響があることは事実であるが、心情的には人の身勝手さの被害者であり、それをものともせずにたくましく野生化したことを攻める気持ちにはなれない。
 ワカケホンセイインコの鳴き声はいつの間にか2つになり、つがいと思われる二羽の鳥がやっと会えたと言わんばかりに呼び合ったかと思うと、暮れかけた空に羽根を広げどこかに飛び去って行った。

(大森圭子)