2020年9月号(第66巻9号)

〇ついこの間まで、行き場をなくして留まっているような熱気に悩まされていたところ、急に肌寒い日も混ざって訪れるようになった。
 ある朝、空を見上げると、まるで天空に棲む画家が、一夜のうちに力の限りを尽くして描いたかのように、さまざまな種類の雲が、遠く青く澄み渡った空に浮かんでいた。
 夏と秋との入れ替わりがそうさせるのか、雲の品評会かと思うほど、小さな雲が群れを成したもの、生命力あふれるように盛り上がり、光と影に覆われ畏怖の念さえ抱かせるもの、薄いベールのように儚げなものなど、どの雲もいつまでも眺めていたいほど趣深く、消えてしまうのが惜しいほどであった。
 秋空の雲の不思議な感じは古くから人を惹き付けてきたようで、小林一茶の句にも「夕暮れや 鬼の出さうな 秋の雲」がある。
〇秋の天候は変わりやすいことから、女性の気持ちが変わりやすいことを例えて「女心と秋の空」という。しかしその原形は江戸時代にできた「男心と秋の空」であり、「秋」には「飽き」の言葉がかけられており、男性の移り気な気持ちを表すことわざである。
 同じく一茶の秋の俳句に「はづかしや おれが心と秋の空」があり、一茶が自分の移り気を反省する思いが伝わってきて微笑ましい。
 明治になり、男女同権が唱えられ、女性の立場も男性に負けじと強くなった時代に、「男心」が「女心」に変わったそうである。

(大森圭子)