2020年7月号(第66巻7号)

 〇このたびの熊本県を中心とした九州地方や中部地方などの各地の豪雨により、被害に遭われた方々へ謹んでお見舞いとお悔やみ申し上げます。大きく壊れた家屋の様子や、長引く梅雨空の下で、懸命に片付けをされているお姿に胸が痛みます。被災地域の一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
〇デザイナーの山本寛斎氏が亡くなった。山本氏は英国の大スター デヴィッド・ボウイの衣装を手掛けたことでも有名で、山本氏が「因幡の素兎」(「素兎」は「白兎」の意味)を図案としたジャンプスーツを個人的に購入し、ステージ衣装として着用したのが初めであったそうだ。
〇出雲の国、大国主命の兄弟の八十神たちは、因幡の国の美しいヤカミ姫を得ようと出向く途中、皮を剥がれ弱っている一羽の兎に出会う。兄弟たちは理由も聞かず、海水に浸かり風で乾かせば良いと意地悪な教えを勧め、兎は教えに従い、潮と乾きで一層痛みに苦しむ。そこへ最後に大国主命が通りかかり、兎を見つけ、このようになったわけを尋ねると、実は対岸に渡りたいがために鰐(サメ)を欺き、鰐の背を踏んで渡るうち、企てを見抜かれ、怒りで皮を剥がれたことを白状する。心優しい末弟の大国主命は、兎の罪を知っても態度を変えることなく、水門の真水で体を洗い、蒲の花の上に寝て体を休めよと教える。やがて兎は回復し、姫は大国主命と結婚するであろうと予言する。これは、誰もが知っている「因幡の白兎」の話である。
 日本最古の歴史書とされ、日本神話である「古事記」に記されているこの話(古事記では「稻羽之素菟」)が、日本の医学の初めとして挙げられることもある。相手への思いやりの心をもった大国主命の親身になった対応に、自分や家族を診てくれるお医者様のあたたかい姿が重なる。
〇新型コロナの感染が広がり、依然として収束の兆しが見えないなかで、日々、新型コロナと闘い、また、通常の外来や入院のなかでさまざまな病に悩み苦しむ人々を変わらずに心身ともに救ってくださっている医療関係者の皆様に、心から敬意を表しますとともに深く感謝申し上げます。

(大森圭子)