2020年6月号(第66巻6号)

〇新型コロナウイルスの影響で、落ち着かない日々を送るうち、気が付けば今年も半年が終わろうとしている。毎日のように敷き直される新しいレールの上で慎重な歩みを続けるほどに、慣れ親しんだ毎日が背中の後ろで遠ざかっていく寂しさや心細さは拭えないが、小雨に滲む木々や紫陽花の花の色はいつもどおり優しく、どのようなときも変わらぬ優しさが暮らしの中に満ちていることに気づかせてくれる。
〇コロナの影響で、インバウンド需要の激減や国内旅行の規制で各地の土産物の売り上げが大幅に減少している。一方で、皆でこの危機を救うべくさまざまなサイトが立ち上がり、余剰在庫となってしまった品物をお取り寄せで応援しようという働きかけも積極的に行われている。
〇今では「土産」と書いて「みやげ」と読むのが習わしとなっているが、元は「宮笥(みやけ)」といって、各地の神様を詣でた際に神社仏閣で配られた品物を持ち帰り、家族や近所に神様の恩恵として分かち合ったことが起源とされる。また、これとは別に、土産物を選ぶ際の品物を「見上げる」動作に由来するとする説もある。
 社寺での祭事等で縁起物が売られると、社頭では土地の産物「土産(とさ)」もあわせて売られるようになった。一方、人を訪ねる際に持参する贈り物のことも「みやげ」「てみやげ」などというが、古くは「食品などを藁で包んだもの」という意味を持つ「笣(つと)」という呼び名があり、「みやげ」とは区別されていた。縁起物と土地の物、どちらもあわせて持ち帰り、家族や親しい人に送ったことから「宮笥」と「土産」「つと」が混同され、やがて「土産(みやげ)」という呼び名が主流になっていったようである。
〇私が幼いころは、どこの家でも各地の縁起物や民芸品のお土産が大切に飾ってあったように思う。わが家の飾り棚にも、お土産でいただいた大小色とりどりの河童の土鈴やこけしが並んでいた。土鈴は縄文時代の遺跡からも出土しているほど歴史が古いが、音には魔除けや福を招く力があるとされ、のちに土鈴も縁起物として神社などで売られるようになったそうだ。飾り棚に鎮座していた河童の土鈴も恐らく親類が、どこかの神社をお参りするたびに買ってきてくれていたのだろう。
 昔のように、持ち帰ることができないものは土産にならなかった時代から、流通手段の発達により、どこにいても各地の産物が手に入る時代になった。長年にわたり文化や経済を支えてきた名産品が無くならないよう、インターネットを活用して、それを守ってきた人たちを少しずつでも応援していきたいと思っている。

(大森圭子)