2020年3月号(第66巻3号)

〇新型コロナウイルスが世界中に広がり、先の見えない闘いと感染拡大防止の厳しい規制がわが国でも長く続いております。暗い影を拭えない毎日の中で、読者の皆様には、一市民としての責任を全うされ、前向きに、出来る限りの予防に努めていらっしゃることと思います。また、このような状況が長く続きお疲れもたまっていくなかで、医療現場で日々患者様に向き合い、検査や治療を行われている方、国民みんなの健康を願い、感染拡大防止のために力を尽くされている方も多くあること、お一人お一人のあたたかい思いに励まされ感謝の気持ちでいっぱいになります。皆様のご健康と一日も早い終息を祈るばかりです。
〇3 月の異名は「夢見月」である。厳しい冬が終わり、寒さに張りつめた空気がゆるみ、小さな花々はまだ冷たい風の中にも恐る恐る咲き始める。様々な生の息吹をうっとり見守るこの時期を「夢見月」と名付けた先人には感服するばかり。室内の環境を自由に操れる現代と比べ、もっと敏感に季節を感じとることができた時代に育まれた感性から生まれた言葉ではないだろうか。大正12 年に作られた「どこかで春が」という童謡がある。「どこかで春が生まれてる どこかで水が流れてる……」の歌詞に実際に見えも聞こえもしていないのに、想像力を掻き立てられ、心に溶け込む穏やかなメロディーとが相俟って、ややもすると雪融け水の流れる音を実際に聞くより春を迎える喜びが胸に満ちてくるように思う。便利すぎる世の中にどっぷり浸り鈍感になっていく自分に比べ、不自由さのなかで、目に見えないものを見ようとする力を蓄え大切にしてきた先人達。豊かな感性で、現代人には味わえない沢山の幸せを日々きめこまやかに感じ取っていたかもしれない。
 便利さと引き換えに失うものの多さについてまた考えさせられた。

(大森圭子)