2020年3月号(第66巻3号)

日本の四季彩巡り(3)

春のシンメトリー

撮影地:
千葉県
飯給駅(いたぶえき)
桜と菜の花

 冬が過ぎ、3 月になると関東でも菜の花が咲き始める。房総半島の東京湾側の五井駅を起点として、大多喜町の上総中野駅を結ぶ小湊鐵道は、この時期満開の桜や菜の花が咲く中、懐かしい昭和のレトロな色の車両が走り、多くの鉄道ファンの絶大な人気を集めている。その中で1~2 を争う人気のスポットは飯給(いたぶ)駅で見られる水面に映りこむ電車と桜と菜の花の風景である。この季節になると多くのカメラマンが集まり、この日も到着した18 時頃にはすでに50 人以上が最前列に三脚を立てて撮影の準備をしている状態であった。混雑を予想していたので準備していた脚立の上に乗り、高めの三脚の上方から見おろす形でレフレクション像を捉えることにした。飯給駅に到着する電車はこの時間1 時間に上りと下りを合わせて2本程度で駅に停車している時間はわずか2 分間なので、その間、この場は連続したシャッター音に包まれる。2 両編成の朱色と肌色のツートンカラーの車両に対して左右対象、そのうえ上下対称で完成度の高いシンメトリーの世界は年配の人にとっては昭和のレトロの世界であり、若い人にとってはおとぎの国のメルヘンの世界である。小湊鐵道界隈はのどかな日本の里山を思い浮かべる風景が多く、この先のいすみ鉄道にも同様の風景があり、温かい穏やかな里山の春の世界を撮影するにはうってつけの場所である。 

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。