2019年7月号(第65巻7号)

力士大型化の功罪

高山赤十字病院
清島 満

力士の大型化によってつまらない決まり手が多くなったことは前回述べたので、今回は力士大型化によるマイナス面を考えてみる。昭和39年から30年以上相撲診療所の医師として力士の健康管理をされていた林盈六先生の著作によれば、力士の疾患として多いのは高血圧、糖尿病、痛風などのいわゆる生活習慣病で、一般男性に比べ明らかに多い。これは力士の基礎的な体づくりとして大量のエネルギー摂取を強制するためで、勿論そのあとに激しい稽古が待っているのだが、運動による消費エネルギーは意外と少なく、必然的に相当量の脂肪が蓄積することになる。昭和51年の幕内力士の平均体重が129kgであったのに対し、40年後の平成28年では164kgで間違いなく大型化(肥満化)している。元横綱隆の里(稀勢の里の親方)はインスリンを打ちながら綱を張ったが休場が多く、ほどなく引退を余儀なくされた。しかも引退後59歳で急逝している。現在の力士には怪我も多い。大きい力士同士が一緒に倒れ込んだ場合、関節や靭帯が損傷する危険性は高い。テレビを見ていてサポーターや包帯をしていない力士が一体何人いるか、数えてみればその少なさに驚く。大関照ノ富士が糖尿病と左膝負傷で一気に十両にまで陥落したのは典型的な大型化のマイナス面ともいえる。最近、宇良という小兵力士が活躍している。襷反りなど、滅多に見られない技を繰り出す。このような力士がもっと増えれば大相撲は面白くなると思うが、その宇良も大型力士の下敷きになって怪我をして休場となった。力士にとって体が大きい方が勝負には有利、すなわちプラスであるが、過度の肥満がもたらす内科疾患や骨折などの怪我は力士にとってマイナスであり、押し出すかはたき込むかだけのつまらない決まり手も観客にとってはマイナスである。観客は多様な技が繰り出される手に汗握る勝負を期待する。日本相撲協会は組織運営の見直しのほかに、過度の肥満・大型化に歯止めをかけるべく、力士の健康管理も徹底して見直すべきと思うが、どうだろうか。