2019年5月号(第65巻5号)

「岐路に立つ21世紀の臨床検査」(続)

九州大学大学院医学研究院
臨床検査医学教授
康 東天

1999年に元臨床検査自動化学会理事長の中井利昭先生が標記のタイトルでモダンメディア「随筆」欄に寄稿されている。本記念「随筆集」においてその後編をとの指名なので、未来など見通す才もない身であるがぼちぼちと考えてみた。「臨床検査を取り巻く環境もますます厳しくなる」「検体検査に特有な精度管理費を加えた適切な報酬が必要」との中井先生の予測は21世紀に入ってわずか18年の現在を見てまさに的を射た指摘であったと思う。◆前者については、当時から臨床検査に対する保険診療コストの見直しが進んでいて、診療収益という点からの臨床検査、特に検体検査の魅力は急速に下がりだしていたが、それでも検査項目、検査数は激増し、診断や治療への貢献度や重要性は向上する一方であり、臨床検査に従事する検査技師や検査専門医の存在価値は上がることはあっても、否定される可能性など夢想だにしないことであった。ところが今般巷間で話題の人工知能AIの急速な発展により、将来失われる可能性のある代表的な職業の一つに挙げられる始末である。その予測をした人物がどれだけ臨床検査を分かっているのかは大いに疑問ではあるが、むしろ私は、今回の状況は我々が臨床検査という“職業”を見つめなおし発展させる良い機会となったと楽観的に考えている。我々は臨床検査が持つ診断的価値をその日常業務の忙しさゆえに、強い言葉を使えば診療科の医師たちに丸投げしてきた側面がある。臨床検査診断は臨床検査を職業とする者にとって本来業務である。おそらく現在はその本来業務を取り戻す千載一遇の機会なのであろうと思う。◆後者については、精度管理が去年の医療法改正で明文化され、ISOの取得にも加算がついた。精度管理は検査結果の診断的価値を上げるための基本中の基本である。そのことがようやく臨床検査外の人からも認められるようになってきたということであるが、IT技術の発展により、極めて多数の医療機関から集められた医療情報ビッグデータ利活用の機運が高まり、精度管理が不十分なデータが多くの医療機関から流れ込むことの危険性に気づいたという側面もある。これも、間接的にはAIのおかげかもしれない。◆このように見てみると、臨床検査は相変わらず岐路に立っているようである。しかし21世紀はまだまだ長い。