2018年5月号(第64巻5号)

750号発刊によせて -感染性食中毒の変遷から思うこと

日本大学生物資源科学部
2018年度 モダンメディア編集委員長
丸山 総一

この度、モダンメディア誌は創刊から数えて記念すべき750号を発行するに至った。創刊が1955年8月であるから63年間が経過したことになる。創刊当時(昭和30年)の食中毒発生状況をみると事件数3,277件、患者数63,745人、死者数554人で、この年は砒素ミルク中毒事件が発生したこともあるが、現在(平成29年)の事件数1,014件、患者数16,464人、死者数3人に比べると衛生状態は格段に悪かったことが伺われる。昭和33年の食中毒統計では、感染性食中毒の病因物質はサルモネラ、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、その他の細菌の4つの区分だけであったが、その後、カンピロバクター ジェジュニ/コリをはじめとする種々の食中毒菌、さらにかつては経口伝染病の起因菌に分類されていた赤痢菌やコレラ菌なども加えられ、現在では、細菌16区分、ウイルス2区分、寄生虫4区分へと細分化されている。また、20年前は腸炎ビブリオやサルモネラ食中毒が上位を占めていたが、現在では事件数ではカンピロバクター食中毒が、患者数ではノロウイルスによる事例が常に上位を占めており、感染性食中毒の様相も大きく様変わりしている。このように、われわれのライフスタイルや食べ物の嗜好の変化、科学・技術の進歩とともに食中毒事情も時々刻々と変化していることを改めて実感する次第である。
私がまだ獣医学生に食中毒の実習を教え、また自分自身も研究に熱中していた助手から講師の頃(1985~1998年)、本誌では様々な食中毒細菌の分離・同定法や食品衛生に関わる最新の話題をいち早く取り上げていた。また、いろいろな培地の選択・変色機序を写真入りで分かりやすく解説した「栄研マニュアル」が有ったので、これらを講義や実習、実験に大いに活用させていただいた。本誌の創刊号は、A5版でわずか10ページであったが、「発刊の言葉」や掲載内容から、培地メーカーとして斯界に貢献すべく意気込みが強く感じられる。現在はA4版で多くのシリーズ、テーマ、特集が企画されていて、関連分野の読者にとって大変読みごたえのあるものとなっている。本誌が1,000号記念を迎える20年後には、食品衛生事情はどのように変化しているのか、また本誌はどのように進化しているのか、思いを馳せると大変興味深い。