2018年5月号(第64巻5号)

日本の四季彩巡り(5)

玄海灘と棚田の夕映え

撮影地:
佐賀県
浜野浦

日本の田園風景を代表するものに棚田がある。朝陽、朝靄に反射して輝く棚田の風景として有名なのが新潟県の星峠であるが、佐賀県の玄海原発の近くに、田植えの始まる頃、満面に水を湛えた棚田が夕陽に美しく映えるところがある。この浜野浦は小さな入り江に面した海岸から駆け上がる階段のように、斜面を幾重にも連なる棚田が覆っており、上から玄海灘と棚田全体が見下ろせる格好のロケーションにある。この棚田では「コシヒカリ」が栽培され、例年、4月中旬から田んぼの水張りが始まり、5月中旬には田植えが終わる。この間、晴天時には水平線に沈む夕日が海面と水田とをオレンジ色に染め、畦道が描く幾何学的模様は想像を絶する美しさをわれわれに与えてくれる。いつか撮りたいと思っていたこの風景、福岡での学会が終わり、レンタカーを借りて約2時間でこの地に着く。この日は雲ひとつない晴天で、太陽が沈む寸前、海はオレンジ色に染まり、棚田は夕陽に映えた。それぞれの棚田には田植えが始まったばかりの稲の苗が規則正しく植えられているのがわかる。太陽の位置により、海の色、棚田の色が刻々と変化し、それに合わせて露出を調整した。太陽の下端が水平線よりやや上にある時間帯に、マイナス補正をして美しい夕映えが撮れた。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。