2018年2月号(第64巻2号)

運命の出会い

順天堂大学大学院医学研究科
臨床病態検査医学
三井田 孝

医学部を卒業すると、1年目に大学内の2つの内科を回り、2年目は学外の病院で1年間研修した。入局した教室では、3年目は血液・内分泌・循環器のいずれかのグループに入り大学に戻るシステムだった。2年目の秋、大学の医局に10数名の同期が集まった。2名だけが3年目も1年間出張することになったためだ。悪い予感が当たり、循環器グループに入る予定のM先生と私がジャンケンに負けた。出張先は、循環器内科医として勤務する上越市(旧高田市)の総合病院か、一般内科医として勤務する十日町市の県立病院だった。上越市は雪深くて有名だが、十日町市も豪雪地帯で、当時は最高積雪深が3年連続で3mを超えていた。M先生は循環器医として働くことを希望し、私は循環器の研修を始めるまでに様々な病気を診ておきたいと考えていた。こうして、二人が自分の希望する病院を選んだ。
4月末に赴任すると、病院裏の駐車場に雪の山が残っていた。最高で患者を30人以上も受け持ち、とにかく毎日が忙しかった。上部内視鏡だけでなく、大腸内視鏡やERCPも一人でできるようになった。そんなある日、TCが、300mg/dL以上ある入院患者がいることに気づいた。診察し直すと、アキレス腱黄色腫がある典型的な家族性高コレステロール血症(FH)の患者さんだった。22歳の長男が、東京で突然死したという。死体検案書の剖検所見から、死因が心筋梗塞だったことがわかった。おそらくホモ型FHだったのだろう。患者さんの弟も、42歳で突然死していた。家系調査で、6名のヘテロ型FHが見つかった。大学に戻るまでに、20家系以上、30名程度のFHが見つかった。こうして、私は脂質異常症の研究を一生の仕事に選んだ。
別の方法で3年目の病院を決めていれば、あるいは初めて出会ったFHの患者さんに突然死の家族がいなければ、私は全く違った場所で働いていることだろう。大学の教員になった今、これから巣立つ学生たち一人一人に、運命の出会いが起きることを願ってやまない。