2018年2月号(第64巻2号)

日本の四季彩巡り(2)

霧氷の燦めき

撮影地:
長野県上高地
田代池

上高地は11月の上旬を過ぎると乗用車の乗り入れが禁止され、一般客には閉ざされた世界になる。1月から2月の厳冬期、上高地の田代池はマイナス15度、無風、前日との気温の差が5度以上下がると、池の周りの木々は、霧氷に覆われる確率が高くなる。3年前にその日がきたと確信し田代池に向かったが、突然風が強くなり、残念ながら霧氷に出会うことができなかった。そのリベンジで撮影したのがこの写真である。麓の沢渡に車を止め、釜トンネルの入口までタクシーで行き、そこから真っ暗な釜トンネルの中をヘッドライトをつけて、やや昇ること約40分、トンネルを出た時間は朝の5時30分であった。無風状態で顔面は冷気でひりひりする格好の条件である。トンネル出口から雪の被った道を歩くこと約1時間、穂高連峰を望む大正池につく。大正池の水面は一部凍り、周りの木は霧氷に覆われている。そこからスノーシューに履き替え林間を歩くこと30分、目的地の田代池に着いた。願いが叶い池の周りの木々は霧氷に覆われていた。田代池は東の方向に山が迫っており、その頂きから朝日が照りだすのが9時半頃である。これからクライマックスが始まる。山の頂きから朝日が差し込むと同時に、太陽の熱にあたった池から蒸気がもうもうと舞い上がり、一方で朝日に当たった霧氷がすばらしい輝きを示す。はれ取りの板をカメラの上方におき、逆光の強い光をさえぎるととともに、勢いのよい靄をできるだけ避けるアングルで夢中にシャッターを切る、まさに霧氷と逆光と靄との格闘の世界である。100回のシャッターの中、ごく一部から選んだ写真がこの一枚である。靄の勢いがおさまり、撮り終わったあとには安堵感が漂った。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。