2017年12月号(第63巻12号)

牡蠣、オイスターの魅力

東京慈恵会医科大学附属病院中央検査部
海渡 健

Rが付く月になってきた、牡蠣のシーズン到来である。岩牡蠣は夏が旬だが今回は真牡蠣について思い付くまま書いてみた。牡蠣は私の大好物であるが、病院ではノロウイルス対策のため、事あるごとに「医療従事者たるもの牡蠣を食べるなどとんでもない」というお達しが出る。それでも隠れて?オイスターバーに行って堪能してしまう。無味のグリコーゲンに亜鉛とタウリンを振りかけて、複数のアミノ酸で味付けした、栄養分がそのまま詰まった健康増進食品、日本では北海道から九州まで全国で養殖されているが、産地によってこんなに味が変わるのかと毎回驚かされる食材である。海の塩気、ミルキーさ、ツルッとした感覚、それぞれの特色を味わいながら冷えたワインと一緒に食べると、いくらでもいけてしまう。生牡蠣の横には産地の名前が記されているため、産地の風景を想像しながら味わっているが、先日釧路に行く機会があり、足を伸ばしてブランド牡蠣で有名な厚岸まで行ってきた。その途中、道をそれて海岸沿いに車を走らせると昆布森に着く。さらにその先には仙鳳趾の港がある。両者とも海を眺めていると涙が出てしまうような小さな寂しい港だが、実はとても有名なブランド牡蠣の産地でもある。港の寂しさと牡蠣のクリーミーさのアンバランスに戸惑いながら車を移動させると、多くの建物が建つ町である厚岸に到着する。これら3つの漁港はそれほど離れていないのに、とれる牡蠣の味には大きな違いがある。海流?昆布?プランクトン?微妙な生物界のなせる技を戴いていることになる。そんなことを考えながら厚岸にある道の駅で生牡蠣、バケツで蒸した牡蠣、自分で焼いた牡蠣、まさに牡蠣三昧を堪能して釧路に戻ってきた。三陸、三重、兵庫、福岡、長崎など、全国各地に、たまらない魅力を持った真牡蠣がある。その産地の風景を思い浮かべながらワインと共に食感と味覚を堪能する、プチ贅沢の瞬間である。これからも「病院職員として適切ではない」と言われながら、また、栄研化学のノロウイルス検査のお世話にならないことを祈りながら、牡蠣の魅力を感じていきたいと思っている。