2017年7月号(第63巻7号)

人工知能の学習方法

信州州大学医学部附属病院臨床検査部長
本田 孝行

人工知能(artificial intelligence: AI)が、猫の画像を猫と認識できる確率は2011年まで74.3%程度であったが、2012年にトロント大学チームがその確率を一挙に84.7%に上げ、にわかに深層学習(deep learning)が注目された。この時すでに、AIはすべての猫の画像データを入力し、合致する画像にて猫を判断する方法は諦めていた。世界中で一日に生まれる猫の数を考えれば、完璧なデータ入力は不可能である。つまり、どんなに多くの正しい知識を持っていても、知識だけでは問題を解決できないことを示している。
どうすれば正しい答えを導きだせるのか、現在AIが直面している課題である。“覚えるより考えろ”というどこかで聞いたような結論となり、AIはdeep learningを用いて自分で考えようとしている。
Deep learningは深層構造を持ったニューラルネットワークと説明されるが、私にはよく理解できないので、勝手に“概念化”だと思っている。個々の猫を観察すると、“目が2つ”、“丸い顔”、“髭がある”などの共通点が認められる。個々の共通点から、さらにその上の共通点を探ると、“髭が顔の直径の1/2以上”(正しいかは?)など少し特異度の高い猫の概念が見つかる。これを繰り返すことにより、満足のいく感度・特異度の概念が形成されれば、ある確率をもって猫と断定できるようになる。AIはこの概念を、人間が入力するのではなく自ら機械学習で学ぼうとしている。AIが人間の概念を超えれば、人間よりも正確に猫と認識できるようになる。
このような学習方法は特に新しくはなく、医学での総論と各論のように思う。医学生にはまず総論(なぜそうなるのかのメカニズム)で考えろと教育する。当たらずとも遠からじまで近づければ、各論という知識の微調整で正解を導ける。AIは最初に各論のみで勝負しようとして失敗し、deep learningで総論を模索している。人間もAIも、“できるやつ”の考え方は結局同じである。