2017年5月号(第63巻5号)

子宮頸がんワクチンの副作用問題に思う

医薬品医療機器総合機構・専門委員
三瀬 勝利

近年、我が国ではワクチン分野で種々の問題が発生しており、代表的なものが子宮頸がんワクチンの副作用に関わるものである。子宮頸がんワクチンはヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンとも呼ばれる。大半の子宮頸がんはHPV感染によって発症するが、承認されているワクチンは約70%の子宮頸がんを予防できると期待されていた。2013年からHPVワクチンは定期接種に指定され、多数の少女たちに接種された。しかし、ワクチンの接種を受けた少女たちに深刻な神経症状の発症が報ぜられたことにより、副作用問題が浮上してきた。その間に、本ワクチンの定期接種化に奔走してきた政治家の身内が、ワクチン販売会社の関係者であったという利益相反問題や、政治的な圧力をかけて定期接種化が進められたという話がメディアで報ぜられている。
斯様な遺憾な事態が発生した理由は明白である。即ち、日本ではワクチン行政に対して責任を持って提言する【独立した】政府組織が存在しないことにある。これに対して米国では、予防接種全体に対して具体的な提言を行い、ワクチンの本質に関して啓発活動を行う独立した政府組織としてACIP(予防接種諮問委員会)が活動している。ACIPでの討論は公開され、その意見は非常に尊重されている(大谷明、他:ワクチンと予防接種の全て、金原出版)。故に米国では政治的な圧力で、新ワクチンの承認や定期接種化が決定されるということは起こらない。日本でも早急にACIPのような組織が設立されるよう期待される。
近年、海外の有名な医学誌では、子宮頸がんワクチンを高く評価する研究報告が数多く掲載されている。日本で報告される副作用事例の多くは子宮頸がんワクチン接種とは無関係で、多感な少女期に発生する他の要因による紛れ込み事例ではないかという見解が支持されている。行政にはHPVワクチンの副作用に関する解析調査を迅速に行うとともに、日本版ACIPの設立に向けて、本格的な舵を切ってもらいたい。ワクチンほど医療に重要な役割を果たした発明品はなく、抗生物質が果たした役割すらも凌駕している。過去に啓発活動がされなかったこともあり、我が国ではワクチンの役割が不当に過小評価されているのは残念である。