2017年4月号(第63巻4号)

稀勢の里フィーバー

浜松医科大学医学部教授
前川 真人

稀勢の里がやってくれました。素晴らしい、画期的な、予想外の、まさかのどんでん返し。本割、優勝決定戦と2番連勝しての逆転優勝。いやあ、歴史に残る素晴らしい優勝でした。稀勢の里劇場なんていう言葉も使われたりしました。しかし、盛り上がりました。13日目に日馬富士に押し倒されて土俵外に転落、左肩を負傷、12日目まで完璧な相撲で全勝街道まっしぐらだったのに、不調の日馬富士にあんな形で負けるなんて、ありえんと思いました。14日目は鶴竜になすすべなく両差しで寄り切られ、やはり相撲を取れる状態ではないのかと皆思ったでしょう。なので、千秋楽で勝つとは。さらに優勝決定戦でも勝つとは。傷だらけの稀勢の里だったので、あれだけのフィーバーになりました。日本人特有の(特有でもないようですが)判官びいきの一つの表れなのでしょう。格闘やバトルが関係する競技やドラマ、アニメなど、全てこれが鉄板です。一方の照ノ富士は貧乏くじをひきました。14日目に琴奨菊に勝った相撲がよくなかった。立ち合いの変化で勝ったため卑怯者というレッテルを貼られてしまいました。もしかすると、照ノ富士も膝の故障が完全にはよくなっておらず、14日目ともなるとよれよれになっていたためかもしれません。
さて、個人的には今でも記憶に残っているのは、アントニオ猪木とタイガー・ジェット・シンの死闘です(かなりマニアックかも)。正義が痛みつけられれば痛みつけられるほど、つまりどん底からてっぺんまでのギャップが大きければ大きいほど、観衆の興奮は高まり、人気を博します。孫悟空がフリーザやセルに勝ったのも、ルフィがミンゴに勝ったのも、傷つき追い詰められた主人公(正義)が悪役を破って逆転勝利する、判官びいきと勧善懲悪のいかにも日本人向けのストーリーなのでしょう。このネタは今月号限定だろうと考え、選んでみました。
ともあれ、稀勢の里、感動をありがとう。そして優勝おめでとう。