2015年8月号(第61巻8号)

隕石の話

帝京大学医学部附属溝口病院 名誉教授 臨床検査科 科長
水口 國雄

数年前、このコラムで原石収集の話を書いた。今年の正月に編集部から続編を書いてほしいとの年賀状を頂き、心が動いた。本誌の目的に合わない内容で申し訳ないが、「石」の話をもう少しさせてほしい。色とりどりの美しい原石の魅力については前回お話したが、現在私が最も興味を持っているのは隕石である。隕石(Meteorite)とは、惑星間空間に存在する固体物質が地球の表面に落下したものである。そのような固体物質は大気中を落下する間に熱くなり気化してゆくが、気化せずに残ったものが隕石である。隕石はたくさん見つかっている。2000年版の隕石カタログには22,507個の隕石が本物として掲載されており、その大部分は南極で見つかった隕石である。隕石の大多数は約46億年前、太陽系の誕生とともに生まれた。隕石の中心には重い鉄やニッケルが核として残り、周囲にマントルができ表面を地殻が取り巻く。まさに隕石は地球の誕生を示唆しており、私たちが接する隕石はその破片である。日本にも数は少ないが隕石の存在が知られている。隕石落下の記述と実際にその場所から隕石が見つかる例は少なくないが、驚くことに落下伝承と隕石が実在する世界最古の事例は日本にあった、これは紀元861年福岡県直方市に落ちた直方隕石である。隕石は成分によって、鉄隕石、石鉄隕石、石質隕石に分けられる。直方隕石は石質隕石である。私も鑑定書付きの鉄ニッケル隕石と鉄隕石を所有しているが、いずれも外国産で、これらが本物かどうか問題である。東京の立川市にある国立極地研究所には日本南極地域観測隊が南極で採集した隕石1万7000個の一部が展示されている。私の知人のご主人がそこに勤務されているので、鑑定をお願いしたが丁重に断られた。巷に流通している「隕石」の95%は偽物といわれる。本物と思って日々愛でるのがよいということであろう。地球と同じ位の古い歴史を持つ「隕石」を手にして太古の宇宙に思いを馳せる今日此の頃である。