2015年2月号(第61巻2号)

Air-travel Borne Infections

慶應義塾大学 名誉教授
相川 直樹

西アフリカで発生したエボラ出血熱(Ebora virusdisease : EVD)が猛威をふるっている。過去にもアフリカでアウトブレークがあったが、今回は、現地で患者を扱って発症した医療人が医療を受けるため航空機で搬入された欧米にも侵入した。欧米からみれば輸入感染症だ。
昔、あるコラムに“Air-travel Borne Infections”の記事を書いたことがある。2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の時、WHOのパンデミック宣言2か月前の4月に、ロンドンからマイアミに行く仕事があった。その数日前にメキシコで患者が発生したので、マイアミ空港の検疫は厳しいと推察していたが、非流行地の英国からの乗客と中南米からの乗客に区別はなく、簡単に入国できてしまった。ところが、その8日後にシカゴから成田に到着した時は、宇宙服のような重装備の検疫官がキャビンに乗り込んできて、乗客一人一人に質問しサーモグラフィーで検温、機外に出るまで1時間ほどを要した。安易な米国に比べ、日本の徹底した検疫の厳しさに感激したものの、その後日本でも患者が多発、厳しい空港検疫でもA/H1N1の輸入を防げなかった。1370年代にペストが流行した時、海洋交易都市ベニスで入港前待機を40(イタリア語のquaranta)日に延長したQuarantine(検疫)でも慢性感染症は防げなかったし、15世紀末の新大陸からの梅毒も検疫をすり抜けた。
潜伏期が短い急性感染症には港の検疫は有用だが、いまやヒトの大陸間異動は専らair-travelとなり、成田空港だけでも年間2千5百万人以上の入国者が持込む感染症を防ぐのは至難の業だ。潜伏期間が最長3週間ともいわれるEVDには、入国者が流行地への渡航歴を偽りなく申告しない限り空港検疫は機能しない。このような感染症を筆者は“Air-travel BorneInfections”と呼んでみた。インフルエンザ、麻疹、結核などのAirborne Infectionsとは一味違う造語である。
(脱稿:2014年11月23日)