2015年2月号(第61巻2号)

肺炎原因菌シリーズ 2月号

写真提供 : 株式会社アイカム

肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae II

「培養した気道上皮細胞に感染させた菌の細胞内増殖を示す共焦点顕微鏡写真」

前号では位相差顕微鏡による観察法を用いて培養気管上皮細胞内で起こると推測される肺炎球菌の増殖の姿に迫った。しかしこの方法を含めて通常の光学顕微鏡法には次の点で大きな限界があることにやがて気がついた。第1 点は、解像力が不十分なために観察の標的とする構造物すなわち感染菌の形態・存在様式が不明確なことである。さらに第2 には、二次元の情報しか得られないために標的構造物の三次元的位置、つまり細胞の表面にあるのかそれとも細胞内にあるのか、が確認できないことである。これらの限界を乗り超えるためには共焦点レーザー顕微鏡による方法が最適と考え、これを用いて観察を行った。
上の写真は、平面的走査によって感染上皮細胞を上から見た場合の画像である。緑色を呈する上皮細胞の内側に強い黄色の蛍光を発する構造物が多数集まっていること、しかも個々の構造物は互いに隔離されていることが分かる。この黄色蛍光は肺炎球菌の菌体を示しており、隣の菌体とはおそらく直接接触しているものの、両者の間には莢膜が存在するために離れて見えるものと考えられる。通常の光学顕微鏡法の場合と比べると、共焦点顕微鏡法で得られる菌体(黄色蛍光構造物)の像ははるかにシャープである。前者の方法では焦点面の情報だけではなくその前後の面の情報も被ってくるために細部が不明瞭になるのに対して、後者では焦点面の情報に限定されるので解像度のより高い画像が得られることによる。
下の写真は、立体的に走査した場合に得られる上皮細胞を真横から見た共焦点顕微鏡像である。この画像から、黄色蛍光構造物(菌体)が細胞の表面ではなく確かに内部に集っていることが分かる。これは感染した肺炎球菌が気道上皮細胞に侵入し、細胞内で増殖することを明確に示している。

写真と解説  山口 英世

1934年3月3日生れ

<所属>
帝京大学名誉教授
帝京大学医真菌研究センター客員教授

<専門>
医真菌学全般とくに新しい抗真菌薬および真菌症診断法の研究・開発

<経歴>
1958年 東京大学医学部医学科卒業
1966年 東京大学医学部講師(細菌学教室)
1966年~68年 米国ペンシルベニア大学医学部生化学教室へ出張
1967年 東京大学医学部助教授(細菌学教室)
1982年 帝京大学医学部教授(植物学微生物学教室)/医真菌研究センター長
1987年 東京大学教授(応用微生物研究所生物活性研究部)
1989年 帝京大学医学部教授(細菌学講座)/医真菌研究センター長
1997年 帝京大学医真菌研究センター専任教授・所長
2004年 現職

<栄研化学からの刊行書>
・猪狩 淳、浦野 隆、山口英世編「栄研学術叢書第14集感染症診断のための臨床検査ガイドブック](1992年)
・山口英世、内田勝久著「栄研学術叢書第15集真菌症診断のための検査ガイド」(1994年)
・ダビース H.ラローン著、山口英世日本語版監修「原書第5版 医真菌-同定の手引き-」(2013年)