2014年12月号(第60巻12号)

What is P ?

北海道大学大学院保健科学研究院 教授
千葉 仁志

大学の卒業祝賀会で学生相手に私が毎年のように話すテーマがある。VSOPである。ブランデーではない。仕事の仕方である。昔、見たTVドラマの中で銀行員が同僚に話したセリフの受け売りである。その銀行員も先輩からの受け売りとして話していた。20代はVitality、つまりバリバリ働け。30代はSpecialty、専門性で仕事をしろ。40代はOriginality、独自性で勝負だ。ここまでは多くの日本人は賛同できる。そうありたい、いや、そうあるべきだ。勿論、芸術の世界では20代でもOriginalityが求められる。科学の世界でも稀には20代で大発見はありえる。しかし、これは凡人の生き方を語っているのである。さて、私はここでいつも学生に質問をする。50代のPはなんだろう?いろいろな答えが返ってくる。答えが出尽くしたのを見はからって、おもむろに私が神のように静かに告げる。Personalityだと。ホ~と学生たちは安堵したように、驚いたように溜息をつく。50代がPersonalityだと私が納得するのに、思えば長い時間が必要だった。初めて聞いた若い頃は、組織のトップとして指導力を発揮できる人格だろうか、他社のトップと渡り合える堂々たる人格だろうかなどと考えた。これらの答えは私の腑に落ちなかった。自分が50代であることにも慣れたある日、答えが見つかった。研究室にも人が増えて、自分で実験をしなくなって久しかった。実験室の最先端の装置は触れることさえ怖い。進行中の研究に関する知識や経験も若者たちのほうが自分より上だ。自分なんぞは研究室にいる価値があるのか?そう思った瞬間に答えが神の啓示のように降りてきた。自分は神輿(みこし)だ。若者たちが私を担いだ時に価値がでる。担いでもらえるPersonality、それが正解だ。